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札幌高等裁判所 平成3年(行コ)4号 判決

控訴人

中尾久

被控訴人

横路孝弘

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

三  原判決主文第二項を「訴訟費用は原告の負担とする。」と更正する。

事実及び理由

一当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(一)  原判決を取消す。

(二)  被控訴人は北海道に対し、金一四四万円を支払え。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

主文第一、二項と同旨

二本件事案の概要

本件事案の概要は、原判決事実及び理由の「第二 事案の概要」に記載されたとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決一枚目裏一一、一二行目の「補助参加人(以下「北海道」という。)」を「北海道」に改め、三枚目表八行目の「不当、」を削る。)。

三証拠関係〈省略〉

四争点に対する判断

1  争点1について

争点1についての当裁判所の判断は、原判決事実及び理由の「第三 争点に対する判断」中の「一 争点1について」の記載と同一であるから、これを引用する。

2  争点2について

地方自治法二四二条の二第一項四号に基づく損害賠償請求は、当該行為が違法なときに認められるものであって、不当であるにすぎないものは除外されているところ、本件パンフレットが外務省発行の冊子「われらの北方領土」と同様な内容を含むからといって、北海道が地方自治体として啓蒙、広報等の趣旨、目的で本件パンフレットを作成して発行することが無意味であるということはできず、その費用支出が違法となるものでないことは明らかである。また控訴人は本件パンフレットの内容につき「ヤルタ協定の間違い」がカットされている等の点で誤りがあり真実を覆い隠す結果となっている旨主張するけれども、本件パンフレット(甲一六、二四)の内容からみて、その発行に要する費用を北海道が支出することが違法となるようなものとは認められないし、これを北海道が発行する目的ないしはこれを発行することが、日本国との平和条約(昭和二七年四月二八日条約第五号)との関係で憲法九八条二項の趣旨に反する違法なものとも到底認め難い。

右のとおり、本件パンフレットの発行に要する費用の支出が違法であるとの控訴人の主張は、独自の見解にすぎず採用できない。

なお、第一審における被控訴人補助参加人北海道は、当審において補助参加の申出を取下げたので、被控訴人においてその訴訟行為を援用しない以上その効力は消滅したというべきである(民訴法六八条二項参照)。もっとも、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づく住民訴訟は、当該自治体に代位して、住民がその自治体に属する権利を行使するものであるから、当該自治体は、被告側に補助参加することは、住民訴訟の趣旨、目的に反し許されないものというべきである。しかるところ、一件記録によれば、第一審の補助参加人は、補助参加後においては、被控訴人と共同名義で準備書面一通(平成二年一一月八日付)を提出し、原告側の数通の準備書面による主張が、本件訴訟と何ら関係がない事項である旨簡単に指摘したにとどまり、原判決の認定判断に影響を及ぼすような特段の訴訟行為をなしていないことが明らかであるから、第一審の補助参加人の参加による行為が、第一審における訴訟手続の法令違反にあたる場合においても、原判決を取消す事由とはなし難く、他方、参加申出を取下げても、参加に基づく第一審判決の参加的効力を免れることはできないものと解すべきである(民訴法七〇条)。

五よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は結論において正当であって(ただし、原判決主文第二項を前記のとおり更正する。)、本件控訴は理由がない。

(裁判長裁判官仲江利政 裁判官吉本俊雄 裁判官高野伸)

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